以前、東京の某繁華街で働いていた頃の話だ。

同じ職場の若手社員たちがラーメン屋の話で盛り上がっていたので、何気なく話に加わると、どうも近所にすごく不味いラーメン屋があるらしい。

「にへどんさんも今度一緒に行きましょうよ」と誘われ、 数日後、面白半分に彼らとその 店に行ってみたのだ。

「味噌ラーメンが極端に不味いですよ」と言われ、味噌ラーメンをオーダー。運ばれてきたそれはシンプルな(つまり具があまり乗っていない)味噌ラーメンだった。

で、そのスープを一口飲んでみて愕然となったのだ。

当時からラーメン専門店では、 『特選魚介だし』とか『鳥ガラを一晩煮込んだ』だとか、 そういう『ウンチク』を売り物にしていたのだが、 その味噌ラーメンのスープは単にお湯に味噌を溶いただけのような味しかしないのだ。 しかも底のほうに味噌が溶けずに溜まっているではないか。

思わず「これ厨房の間違いで運ばれてきたんじゃないの?」と言うボクに、 一緒に来た同僚たちが悪戯っぽい笑みを浮かべながら 「ね、不味いでしょ?」と楽しそうにささやいたのだ。

不味いというよりはむしろ料理を知らない人が “イメージだけで”作ってしまった感じのラーメンだった。

「これって、いつもこういう味付けなの?」と言うと、同僚たちは下を向きながら笑いをこらえて肩を震わせていた。しかしこんな不味い(というか失敗作の)ラーメンを出す店にもかかわらず、店内は満員だった。ほとんどが若いグループ客で、これまたたいてい味噌ラーメンを食べている。

そしてそのとき別のグループで交わされる衝撃的な会話が耳に入ってきた!

「な、不味いだろ?」 「ほんとだ、マジ不味い!」

という会話の後にそのグループも皆、 下を向き笑いをこらえて肩を震わせているではないか。 いやそのグループだけではない。 どうやら、その店にいる若いグループ客は、 皆、不味いラーメンを目当てにこの店にきていたらしい。

つまりその店は、不味いラーメンで客を集めていたのだった。

ま、店側で本当にそういう意図で不味いラーメンを作っているのか、 それとも単に作ったラーメンが不味くて、 結果的に、その不味さが客を呼ぶようになったのかは解らないが、 その店は確かに「不味いラーメンの存在を仲間に教えたい」 という顧客心理によって大繁盛してる店だったのだ。

まさに『極めれば力になる』の最高の事例ではないか。

この話は1995〜1996年ごろの出来事だ。2000年ごろにはこの店はもう無くなっていたと記憶しているので、一体どれくらいの期間『不味いラーメン』を売りにして繁盛していたのかは定かではない。

しかし、とても人通りの多い立地条件であったにもかかわらず閉店してしまったということは、やはり「インパクトだけでは恒常的な繁栄は望めない」ということなのか。

不味いラーメンの法則: 奇をてらったインパクトでスタートダッシュは制することができても、長い目で見れば実力がモノを言う。