【犬の糞とゲリラ活動】

ボクが幼少のころは街の中に犬の糞がよく落ちていた。 犬の糞といえば「バクチク」を連想する方も多いだろうが、ボクの地元ではバクチクよりも クラッカー(「2B弾」とも呼ばれていた)が主流だったのだ。

バクチクだと本体が短く、犬の糞に深く差し込めないのだが、 長いクラッカーであれば深く差し込むことができる、という理由からだ。 え、何の話かわからないって? 当然、犬の糞を爆発させる話ですよ、やだなぁ。

爆発物を深く差し込んだ方が、より広範囲に犬の糞が飛び散るということを、 当時のボクたちは感覚的に理解していたような気がする。

時代はまだベトナム戦争真っ最中、ボクたちは犬の糞にクラッカーを仕込んだものを「時限爆弾」、 それを爆発させることを「ゲリラ活動」と呼んでたっけ。

【脳内英雄“モトイ君”】

ところで、ボクにはN君という友人がいた。 彼は学区域のはずれに住んでいたため、彼の地元の友人にはボクとは別の小学校に通っている児童も多かったのだが、 そのなかに「モトイ君」という少年がいた。

ボクはそのモトイ君に一度も会ったことがないのだが、モトイ君は当時のボクの英雄だったのだ。

モトイ君は「ゲリラ活動」の大天才だった。 彼が仕掛けた「時限爆弾」はその殺傷範囲(要は犬の糞が飛び散る距離)がとても広かったのだ。 たぶん爆発物を仕掛ける深さや角度がとても洗練されていたのだろう。

これらは犬の糞の形状や古さ(古くなると表面から硬くなっていく)によって調整する必要があるため、 職人的技術が要求されるところなのだ。

また、モトイ君は単なる職人ではなく冒険家でもあった。

彼は「自分が仕掛けた時限爆弾の殺傷範囲を見極め、ギリギリまで近づいた場所で爆発を見守る」という 無謀な冒険に挑んでいたのだ。

このゲームは「ギリギリ・セーフ」という名称だったと記憶している。

彼は何度もこの偉業を達成し、英雄の名を欲しいままにしていた。 ま、あくまでもボクの想像の中での英雄であり、彼が地元で英雄扱いされていたかどうかは知らないが。

これらは全てN君が語ったことがベースになっているのだが、 この辺りになると、どこまでが聞いた話でどこまでがボクの脳内で作られたものなのか、今となっては区別がつかない。

【半世紀以上過ぎた今でも】

ある日、モトイ君はとてつもない作戦を実行した。 なんとクラッカーを3本、犬の糞に仕込んだ時限爆弾を使ってのギリギリ・セーフを行ったのだ!

何故3本かといえば、ギリギリ・セーフの名称から野球が連想され、野球→長嶋→背番号3、という発想だ。 これは当時の小学生にとってはごく普通の発想だ。

果敢にもこの大冒険に挑んだモトイ君だったが、 結果は犬の糞を全身に浴びてしまうことになったのだ。 そしてその後、彼には「うんこっち」というあだ名が付けられてしまったらしい。

あれから半世紀以上が経った今でも、ボクはモトイ君とは一度も会ったことがない。

そして、仕事でモトイという名前の方に出会うたびに「もしかして小学生時代 うんこっち というあだ名でしたか?」と 聞きたい衝動に駆られてしまう。ま、自粛しているけど。

会ったこともない友人の法則: 人間は、脳内でつくったデキゴトに本気で心を動かされることが多々ある。