【アポロの時計の法則】

ブランドものの腕時計にはまったく興味が無い。時計は動きさえすれば良いのだと思っている。ゲイノウジンが「何百万円の時計をしている」といったことを言っているのをたまに聞くが「ばっかじゃねぇの」としか思わない。ヤキモチとかそういうんじゃないよ。 だって、単に「高いから」「有名だから」という理由でブランドものをありがたがる人間の精神構造が安っぽく思えてならないじゃないか。

そんなボクだが、唯一気になる時計が、アポロ11号が月に行ったときに宇宙飛行士たちが腕にしていたオメガの『スピードマスター』だ。

当時小学校1年生だったボクにとって、アポロ11号の快挙は「そりゃあもう大騒ぎ」な大事件であり、連日報道されるアポロ関連のニュースをかじりつくように見ていたっけ。

そんなある日、新聞にまるまる一面「アポロ計画で宇宙飛行士が身につけていた時計」というようなコピーが書かれた『スピードマスター』の広告を発見した。 そしてその『アポロの時計』は、『人類の英知』と『輝ける未来』の象徴そのものとしてボクの脳裏に刻み込まれたのだ。

『アポロの時計』は今も販売されていて、裏面には『FIRST WATCH WORN ON THE MOON』と刻まれているのだそうだ。欲しいとは思うが、ボクの稼ぎではどうしようもない。「道端に倒れていた老人を助けたらその人が偶然オメガの役員で、お礼に時計をくれた」ということでも起きない限り、ボクがそれを手に入れる事はないだろう。ま、諦めるしかない。

手に入れることができない『スピードマスター』だが、改めてどれくらい凄い腕時計かを述べてみる。

オメガのサイトでは「無重力と磁場、極度な衝撃と振動、そして-18〜+93℃に及ぶ温度という条件下でのアメリカ航空宇宙局の過酷なテストをすべてクリアした唯一の腕時計」「唯一、月面に着陸した腕時計」なる説明が書かれている。

最もドラマチックなのは『アポロ13号』でのこの腕時計の『活躍』だろう。重大な電気系統の事故により月着陸はおろか地球への帰還すら絶望的とされたこの事件、唯一の生還の方法は手動でエンジンを始動させ、あるタイミングから正確に14秒間噴射させることだった。

その時間を計測したのがこの『スピードマスター』なのだ。

そのときの功績でオメガはNASAの宇宙飛行士たちによって授与される栄誉ある『スヌーピー・アワード』を受賞したのだとか。『スヌーピー・アワード』という名称はどうもアメリカ的でちょっとずっこけるのだが、ま、それはそれとして「宇宙飛行士から授与された」というのが素晴らしい。

さらに米ソ冷戦時代の終結を予測させる宇宙イベントである『アポロ−ソユーズ宇宙ドッキング』においては、アメリカ側の宇宙飛行士だけでなくソビエト側の宇宙飛行士の腕にもこの『スピードマスター』が巻かれていたという。「テクノロジーは国境や思想を越える」のだ。理系おやじのボクとしてはなんとも嬉しい話じゃないか。

『スピードマスター』とはそういう時計なのだ。

うーん、やっぱり欲しいなぁ。よし、やっぱり毎週末『オメガの役員が倒れていそうな場所』をまじめに俳諧でもしてみるか。

アポロの時計の法則: ブランド名よりも、値段よりも、理系おやじにとっては価値のあるものがある。