“カサラブランカ”のなかで一番カッコイイのはポール・ヘンリード扮するラズロだと、ボクは真剣に思っている。

【カサブランカではラズロが最高の法則】

カサブランカと言えばハンフリー・ボガードとイングリット・バーグマンの『大人のラブロマンス(笑)』として認識している人もいると思う。しかし、ボクにとってこの映画の中心は、調子こいたセリフを言うボガードなんかではなくて、力強さと冷静さとを紳士の趣に包み込んだ、ポール・ヘンリード扮する『ヴィクトル・ラズロ』一択なのだ。

ラズロは国際的な反ナチ活動家で、バーグマン演じるイルザは彼の妻だ。二人がゲシュタポの手を逃れるためにカサブランカに逃げてくるところからこの映画は始まる。カサブランカにはボガード演じるリックが大きなカジノを経営していて、彼はかつてパリに住んでいたときにイルザと恋仲だったという設定だ。

ラズロの最初の『見せ場』は、リックの店で起こる。

カサブランカはもともとフランス領だったが、物語進行時はドイツによって統治されていた。リックの店にはドイツ兵が我が物顔で徒党を組んで酒を呑んでいて、ドイツの愛国歌である『ラインの守り』を声たからかに歌いだすのだ。

そのときラズロが店の楽団にフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』をリクエストした! 彼はドイツ兵に対抗して声たからかにフランス国歌を唄いだしたのだ。怒りに満ちた顔でラズロを睨みつける酔いどれドイツ兵たち。しかしラズロの歌声に合わせて店内にいた他のフランス人つまり『ドイツに侵略されている側の人間』が皆、立ち上がり、彼とともにともに『ラ・マルセイエーズ』唄いだすのだよ!

ついにドイツ兵たちも、その勢いに押されてすごすごと店を出て行ってしまう。そして、ラズロの妻のイルザは、誇らしげに自分の夫を見つめる。あぁ、男なら誰でもあんな風に自分の愛した人から見つめられたいよなぁ。とにかく最高に痺れるシーンなんだから!

このシーンを見ていると、卒業式で『国歌斉唱』を拒否する左翼系教師や左翼系両親に育てれた学生たちが、実に幼稚に見えてくるよ。

しかし、バーグマン扮するイルザは、実は決して『良い女』ではないというのがこの映画のポイントでもあるのだ。

かつてパリで、イルザはリックと恋仲だった。実はそのとき既にイルザはラズロと結婚していたのだが、イルザは「ラズロがゲシュタポに殺された」と知らされたため、その寂しさから逃れる気持ちで、彼女はリックと付き合い始めたのだ。そして直に、ラズロが生きていると知り、彼女はリックのもとを離れた、というのが二人のパリでの結末だった。

しかし、カサラブランカでリックと再会したときに、こともあろうにイルザは「ラズロに対する尊敬の気持ちを愛だと錯覚していた、本当に愛しているのは貴方よ」などとほざき、ラズロを捨てて(しかも彼を狙っているゲシュタポがうようよしているカサブランカに彼を置き去りにして!)、リックとともにリスボンに逃げようとしたのだ。

しかも、彼女はいわゆる『性悪女』なのではなく、彼女は彼女なりに「ピュアーな気持ちでリックに愛を感じていた」のだから、更にたちが悪い。

しかしそんな状況になっていることを知ったにも係わらず、その後のラズロがまた魅せてくれる。そんな「浮ついた」イルザに対して、ラズロは全てを知った上で実に紳士的な態度で接し続けるのだ。

そしてリックもはやり魅せてくれる。彼も最初は、かつてイルザに逃げられたことを引きずり、未練がましい態度をとっていたが、最後にはイルザを諭し、自ら危険を犯してまでイルザをラズロとともにリスボンへと逃がすのだ。

二人とも実に『大人の男』なんだよなぁ。

ここで感じたことは次の2つ。

まず1つ目。昔の恋からいまだに開放されていないリックに、イルザと別れる決意をさせたのは、活動家ラズロの常に紳士的で毅然としていて、それでいて『戦う心』を持ち続けている姿だったのではないだろうか。やはり、この映画で一番存在感のあるのはラズロなのだ。

そして2つ目。そもそも女性と言うものは生物学的にイルザのような思考回路を持つ存在であり、女性と付き合うには、男はたとえやせ我慢であっても、紳士的にかつ毅然とした態度で接するしかないのだろうということ。

ラストの飛行場のシーン、“リックと一緒にリスボンに行こうとしているイルザ”に対し、リックが「君はラズロと行くべきだ」と説得する場面で、あえて独りで先に歩き出し、リックとイルザが二人だけで話ができる機会を与えているラズロの姿こそ、ハードボイルドそのものだったと思う。

もし、あの時、急にイルザとリックがラズロに銃を向けて、「リスボンに行くのは私たちだ」と言ったとしても、ラズロは顔色一つ変えずに「イルザ、君にとってはその方が幸せだろう。私と行動を供にするのはあまりにも危険だからな」と言い放ち、彼女とリックを送り出しただろうなぁ。そこまで覚悟を決めた上で、ラズロは先に歩き出し、イルザとリックが二人だけで話をする機会を与えたはずなのだ。

ラズロには起きてしまったことに対しての未練は一切持たずにそれを受け入れ、そのうえで最善の策を考えることができる『鉄の心』が備わっている。

ラズロがそんな男だったからこそ、リックはイルザと別れることを決めたのだろう。この映画はラズロを中心に描かれている。この映画の中には「君の瞳に乾杯」とか「そんな昔のことは覚えていない」などのボガードの『名セリフ(笑)』があふれているが、ボクとしてはそんな調子こいたセリフよりも、『ラ・マルセイエーズを唄うラズロと、彼を誇らしげに見つめるイルザのシーン』が大好きなんだ。

カサブランカではラズロが最高の法則: 常に紳士的で毅然とした態度を保ち、そして戦う心を忘れない、そんな男はカッコイイなぁ。