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●会ったこともない「モトイ君」が少年時代のヒーローだった。

ボクが幼少のころは街の中に犬の糞がよく落ちていました。犬の糞といえば「バクチク」を連想する方も多いでしょうけど、ボクの地元ではバクチクよりも クラッカー(「2B弾」とも呼ばれていた)が主流でしたねぇ。

バクチクだと本体が短く、犬の糞に深く差し込めないのですが、 長いクラッカーであれば深く差し込むことができるというのがその理由でした。え、何の話かわからないって? 当然、犬の糞を爆発させる話ですよ、やだなぁ。

爆発物を深く差し込んだ方が、より広範囲に犬の糞が飛び散るということを、 当時のボクたちは感覚的に理解していたんですよね。

時代はまだベトナム戦争真っ最中、ボクたちは犬の糞にクラッカーを仕込んだものを「時限爆弾」、 それを爆発させることを「ゲリラ活動」と呼んでいましたっけ。

ところで、ボクにはN君という同級生の友人がいました。彼は学区域のはずれに住んでいたため、彼の地元の友人にはボクとは別の小学校に通っている児童も多く、そのなかに「モトイ君」という少年がいたのです。

実は、ボクはそのモトイ君に一度も会ったことがないのですが、モトイ君は当時のボクの英雄でした。

N君の話では、モトイ君は「ゲリラ活動」の大天才だったようです。彼が仕掛けた「時限爆弾」はその殺傷範囲(要は犬の糞が飛び散る距離)がとても広かったのだそうです。たぶん爆発物を仕掛ける深さや角度がとても洗練されていたのでしょうねぇ。

犬の糞を広範囲に飛び散らせるためには、糞の形状や古さ(古くなると表面から硬くなっていく)などによって調整する、いわゆる「職人的技術」が必要なのです。モトイ君は犬の糞爆発の職人だったのですよ。

さらに、モトイ君は単なる職人ではなく冒険家でもありました。

彼は「自分が仕掛けた時限爆弾の殺傷範囲を見極め、ギリギリまで近づいた場所で爆発を見守る」という 無謀な冒険に挑んでいたのですから、その勇気たるやただモノではありません。

ちなみに、このゲームは「ギリギリ・セーフ」という名称だったと、ボクは記憶してています。

彼は何度もこの「ギリギリ・セーフ」を達成し、英雄の名を欲しいままにしていたのです。ま、あくまでもボクの想像の中での英雄であり、彼が地元で英雄扱いされていたかどうかは知らないんですけどね。

というのも、これらの話は全てN君が語ったことがベースになっているのですが、この辺りになると、どこまでが聞いた話でどこまでがボクの脳内で作られたものなのか、今となってはまったく区別がつかないのです。

で、ある日、(ボクの記憶では)モトイ君はとてつもない作戦を実行したのでした。 なんとクラッカーを3本、犬の糞に仕込んだ時限爆弾を使ってのギリギリ・セーフを行ったのです!

何故3本かといえば、ギリギリ・セーフの名称から野球が連想され、野球→長嶋→背番号3、という発想ですね。これは当時の小学生にとってはごく普通の発想なんですよ。

果敢にもこの大冒険に挑んだモトイ君だったのですが、結果は犬の糞を全身に浴びることになってしまいました。そしてその後、彼には「うんこっち」というあだ名が付けられてしまったらしいのです。

この話を聞いた、もしくはボクの脳内で作られた時から、もう半世紀が経ちますが、いまだにボクはモトイ君とは一度も会ったことがありません。

仕事でモトイという名前の方に出会うことがたまにありますが、そのたびに「もしかして小学生時代 うんこっち というあだ名でしたか?」と 聞きたい衝動に駆られてしまうんですよねぇ。ま、自粛していますけど。

そこでボクが気づいたことは・・・

「人間は、脳内でつくったデキゴトに本気で心を動かされることが多々ある。」ということです。これをボクは「モトイ君の法則」と呼んでいます。