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晩餐会の料理


肉 を食べると言う行為には、他者の生命を奪って食すという『罪の意識』 を励起させる魔力が秘められている。そして罪の意識はすなわち快楽に他ならない。故に仲間と一緒に肉を食べるという行為は 罪の共有 であり、危うい連帯感 を醸し出すのだ。

「上質なものなら、肉はなるべくレアに近い方が美味いな」
「左様、肉ははレアに限る」

紳士達が七人、贅を極めた料理が並べられているテーブルについていた。彼らはこの国の 支配者階級 の最上部に属する紳士達であり、定期的に晩餐会を開いていたのだ。

生肉 についての話題が盛り上がり、しかし種類によっては寄生虫などの問題で、レアでは食べられないなどという意見が出てきたとき、比較的若い紳士が口を開いた。

「実は私も以前から生肉食には興味を持っていまして、様々な獣の生肉を使った料理の研究を行っておりました」

ほう、という他の紳士達の好奇に満ちた反応を受け、若い紳士は給仕に合図をした。白い軍服をあしらった服を着た給仕は恭しく頭を下げると大きな銀色の蓋が被せられた料理が乗せられたワゴンを運んできた。

「これがその肉かね」
「はい●●の肉です。普通は火を通して食べますが、無菌状態で育てたものを限りなくレアで調理したものです」

給仕が料理を皿に取り分け紳士達の前に運ばれると、彼らは興味深そうにその料理を覗き込んだ。淡いピンクの色 がほとんどレアだということを示していた。

若い紳士から、さあ、どうぞ、と薦められ、紳士達は恐る恐るその料理を口へと運んだ。

「おお、これは」
「なんと、すばらしい」

紳士達からはため息のような言葉が漏れた。

「まるで生命をそのまま食べているようだ」

最年長の紳士が虚ろな表情でそう言うと、他の紳士達もそれに同意し、背徳の快楽を共有した者同士にのみ伝わる微笑を交し合った。

「どうだろう、今後この晩餐会では生肉を使った料理をメニューに入れるようにしては」

最年長紳士の提案に、紳士達は皆頷いた。

それ以来、紳士達の晩餐会にはあらゆる動物の肉がほぼ生で調理され並ぶようになった。

それはまさに、己の快楽のためだけに他の生物の命を奪い、『生』という最も生命に近い形で食するという行為であった。

紳士達は知らず知らずにそうした『罪の意識』を共有しはじめ、より深く団結するようになり、その結果、彼らの権力はより 強大 なものへとなっていったのだ。

そしてある晩餐会の席上でのこと。

「この星のほとんど全ての動物の生肉を食べてきて気付いた事がある。それは、知能が高い動物の生肉ほど、食べたときに得られる快楽が大きくなるという事だ。つまり 快楽は背徳に比例する という事だな」

最年長紳士のこの言葉に、一同は大きく頷き、しばらくの間、沈黙が続いた。そしてようやく、カイゼル髯の紳士が口を開いた。

「皆さんが何を考えているかは別として、高度な知性を持つ動物の肉を食べたい という点では一致していると思います。ご存知の通り、私は今、我が国の宇宙開発事業を掌握させていただいておりますが、皆さんのご協力をいただければ、他の星の高等生物の生肉を手に入れることもできるのですが」

紳士達はざわつき、お互いの顔を見合わせ、意味ありげな微笑を交し合った。宇宙開発事業に対してはその必要性を疑問視する世論のため十分な国家予算を捻出することをためらっていたのだが、どうやら今回の提案で他の紳士達の気持ちが動き始めたようだった。

「高等生物が住む星など、実在するのかね」

最年長の紳士の問いかけにカイゼル髯の紳士は答えた。

「はい。我々の銀河の中心から約2500光年ほど離れた渦状腕の中にG型スペクトルの恒星系がありますが、その第三惑星にどうやら文明を持つヒューマノイドタイプの生命体が生息しているようなのです。 彼らが数十年前に作ったと思われる宇宙探査機を捕獲したので間違いありません。幼稚な構造ではありますが一応宇宙探査機を作れるレベルには進化を遂げた生物です。その肉はきっと我々に更なる快楽を与えてくれることでしょう」

カイゼル髯の紳士の言葉に他の六人の紳士達はどよめき始めた。中には 緑色の二股の舌を出し口の周りを舐めている者もいた。最年長の紳士が 額の触角 を震わせながら言った。

「どうだね、皆さん。彼の事業に最大限の協力をしては。一日も早く、その星の生物の生肉をこの晩餐会のテーブルに乗せるために」

紳士達は一同、大きく頷いた。


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