檜枝岐村(ひのえまたむら)は昭和の初期まで秘境だった場所で、稲作には適さない土地ゆえ、独自の料理文化を育んできました。
それが山人料理(やもーどりょうり)で、蕎麦や山菜、熊や鹿・兎などの獣肉、岩魚などの川魚などを使った料理なのですが、ボク的にはなんと言っても「サンショウウオ料理」を取り上げたいですねぇ。
2005年(うろ覚え)に、サンショウウオを食べるために、ボクは初めてこの地を訪れました。尾瀬国立公園の北部で、会津と魚沼との間の、手つかずの日本の自然が残っている地区を走る国道352号線の数百メートルぐらいの両脇に点在する小さな村で、車を止めてちょっと歩くだけで、日本の原風景が広がる場所なんです。
自然や素朴な村の雰囲気もとても気に入りましたが、それよりも心が動いたのが、この村の住民の苗字がほぼ『星』『平野』『橘』の三種類だということだったりして♪
「檜枝岐村は平家の落ち武者が切り開いた」という伝説が残っているので、この地に落ち延びた落ち武者部隊に、星、平野、橘という三人の小隊長がいて、どの小隊長に属しているかで苗字が決まったんじゃないかと、勝手に思っている次第です。
この三部隊で、それぞれこの地で食料を確保する術を競い合ったり、料理方法を磨き合ったり、そうして生まれたのが山人料理なのでしょう。(けさらんぱさらん研究所の説)
こうした思い込みは、山人料理にさらなるスパイスを振りかけてくれますよね♪ 今回はサンショウウオ料理を取り上げていますが、山人料理の全体的な世界観や、苗字ごとにその調理法に違いはあるのかなどにも、次回は是非、スポットを当ててみたいです。
そば粉ともち米粉とを混ぜて練りこんで茹でた はっとう。 甘みのある胡麻ダレをつけて食べるのだが、ボク的には甘みゼロで胡麻と塩だけで良いかな。そうすれば酒の肴にピッタリのような気がする。
蜂蜜をハチの巣ごと食べる。甘いのが苦手なボクにもこれは結構イケた。意外と日本酒に合ったし、ビールにもウィスキーにも合いそう。
里芋や豆腐、山菜などが入った こづゆ。貝柱でとった出汁が効いた会津地方の代表的な郷土料理で、二日酔いの朝に食べたい。
山人料理・はっとうについて、お勉強もできるのです。
店に平然と飾られいた熊の手足の剥製。このタイプのものは初めて見ました。いやー食欲をそそるよなぁ、ってそんなわけないですね♪
熊の毛皮そのものはよく見るものですが、この地で見ると、やはり「オーラ」が違います。
この地方でサンショウウオ料理が誕生したのは明治の終わりから大正の初めの頃だそうで、結構、最近のことなのですよ。
だもんで、サンショウウオ料理の発生については、かなり具体的な話が残されているのです。
それら伝承によれば、 檜枝岐村にサンショウウオ料理を伝えたのは栃木県川俣出身の“みの吉”さんだとのこと。個人名まで残っているなんて、なんかワクワクしてきませんか♪
みの吉さんには、富吉さん(この方には「星」という名字がついて紹介されていました)、富次郎さん、数三郎さんという三人のお子さんがいて、その方々にサンショウウオ料理法が伝わったとのことです。
ボクがこの話を知っただいぶ後に 会津地方を旅行していた時に、偶然コンビニで見つけた“地元を紹介するムック本”に、なんと富吉さんの記事が写真入で掲載されていました。まさに生きた伝説! 思わず小躍りしてしまいましたよ。
現代ではさらに、富吉さんの息子さんの星 寛(ほしゆたか)さんが、現役の「サンショウウオ採りの達人」らしいですね。そのスジではかなり有名人らしいです。
比較的新しい伝説ゆえに、実名が次々と出てくるんですよ。どうです、ワクワクしてきたでしょ? まだサンショウウオ料理を食べたことが無い人は、次の休みに是非食べに行って、この「現在進行中の伝説」に貴方も関わってみませんか?
こうした伝説をシッカリと次世代に伝えていくのはボクらの責務ですよ。皆さんも、「檜枝岐村にサンショウウオ料理を伝えたのは誰?」と聞かれたら、「みの吉さんが伝え、さらに星三兄弟へ、そして星寛さんへ伝えられた」と 即答できるようにしておいてくださいませ♪
サンショウウオは、漢方理論的にも滋養強壮や子供の疳の虫を抑える効果があると言われていて、 かつては「不老不死の妙薬」の材料と考えられていた時代もあったらしいとのこと。
不老不死の妙薬の作り方はよくわかりませんが、通常、サンショウウオの食べ方としては、燻製してから炙る、天婦羅、唐揚げ、塩焼きなどがあるみたいですね。これらも「みの吉」さんが檜枝岐村に伝えたものなのでしょうねぇ。
中には「サンショウウオの夫婦をペアで食べると精力がつく」などのアレっぽい言い伝えもあるようですが、これも「みの吉」さんが伝えたことなのかな?
檜枝岐村で食べられているサンショウウオはハコネサンショウウオという種類で、特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオとは全く別種ですので、早とちりで「お前がサンショウウオを食い散らかしているから、絶滅危惧旬になったんだろう」なんて思わないでくださいよ。
特別天然記念物のオオサンショウウオは大きくなると1メートルを超えるらしいですが、ボクが檜枝岐村で食べた奴は、料理によって縮んだことを考慮しても、生きている時は20センチって感じですかね。
体長1メートルを超えるサンショウウオって、山の中で出会ったらめちゃくちゃ怖いだろうなぁ。ガラパゴスのデカいトカゲぐらいのインパクトはありそうです。(もちろん、サンショウウオは両生類で、トカゲは爬虫類だなんてことは、当然知ってますよ♪)
実際に、オオサンショウウオの牙はかなり鋭くて、噛まれるとかなりヤバイらしいです。
ところで、檜枝岐村でのサンショウウオ漁は“1度サンショウウオを獲った沢は2年休ませる”という漁法が採用されています。
これも「みの吉のお孫さんの寛(ゆたか)さんが指導している」ことで、自然の循環ペースに合わせた、実にエコロジカルな漁法なんですよ。さすがは「みの吉一族」です!